マッチング拠出について
企業型DCは退職給付制度として位置づけられているため、会社が掛金を拠出する仕組みとなっていましたが、2012年1月の法改正によって、加入者も一定の範囲内で事業主の掛金に上乗せ拠出ができる「マッチング拠出」が可能となりました。この制度によって、労使双方がDCを活用しながら退職後の経済的不安に備える仕組みが誕生したといえます。
マッチング拠出は規約に定めれば導入することができますが、採用した場合においても、加入者がその利用を強制されることはなく、2022年10月の制度改正でマッチング拠出を導入している企業の企業型DC加入者については、マッチング拠出をするかiDeCoに加入するかを加入者ごとに選択できるようになりました。組合員にとっては、任意で利用でき、かつ税制メリットの大きい制度なので、労働組合としても制度の概要を理解し、その導入を検討してみることが望まれます。
- マッチング拠出のルール
加入者の掛金は、会社掛金と同額まで、かつ合算で拠出限度額まで
マッチング拠出の金額には上限が設けられています。会社の掛金との合計で拠出限度額である月額55,000円を超えることはできません(企業年金を併用している場合は月額27,500円)。また、企業年金は主たる拠出者は会社であるという考えにもとづき、会社の掛金を加入者本人の掛金が上回ることもできません。詳しくは図表のようになります。
- 多くの企業がマッチング拠出の採用を進めており、2020年7月末時点では、全体の約40%の規約がマッチング拠出を採用するなど、導入割合も高まっています。
加入者掛金の変更は年1回に限り行えます(ただしやむを得ない理由により掛金拠出を停止し0円にすることや0円から戻すことはいつでも認められます)。多くの会社では毎年一定月を申込期間として対応することが多いようです。例えば、財形や共済の募集と同様に「○月○日~○月○日に加入の申出・掛金額変更を行ってください」のように定めることができます。
- マッチング拠出のメリット
加入者の掛金は全額所得控除に
マッチング拠出の最大のメリットは、加入者の掛金に税制優遇が適用されることです。掛金については、全額が所得控除の対象となるため、将来のために積立てをすると、所得税・住民税が軽減されることとなります。
- 原則60歳まで受取りができない点には注意が必要です。退職時まで使う予定のない余裕資金であれば問題ありませんが、住宅ローンの返済金や教育資金など当面の支出に備え、手元に残しておくべきお金を確保したうえで、上手にマッチング拠出を活用することが大切です。
また、会社掛金と同様に資産運用によって生じた利益については全額が非課税となります。売却益、利息、配当、収益分配金などがそのまま手元に残るため、効率的な資産形成が行えます。これは現役時代に行う資産形成における大きな税制優遇措置です。
なお、加入者掛金は、会社が拠出した掛金と分別されず、一体となって運用管理されるので、退職一時金として受取る場合は退職所得、年金として受取る場合は雑所得として取扱われ、それぞれ退職所得控除・公的年金等控除の適用対象となります。
- 労働組合の関わり方
-
マッチング拠出は低コストで福利厚生の拡充が図れます
マッチング拠出の導入にあたっては、給料計算システムの修正コストや、案内や申請などの事務手続きが発生するものの、制度自体は加入者が掛金を負担する仕組みなので、給料アップや諸手当の拡充とは異なり、会社側の人件費が膨らむものではありません。
つまり、低コストで福利厚生の拡充が図れることから、労使双方にメリットの大きい制度であるといえるので、労働組合から積極的にマッチング拠出の導入を提案する価値があります。マッチング拠出の導入検討時に、想定利回りや運用商品も併せて検証を
マッチング拠出の導入は、企業型DCの制度運営状況を改めて検証する良いタイミングです。
DCを導入する際に労働組合で協議して整理した各種条件が、今の経済状況や制度の運営実態と照らして大きく乖離していないかなどを労使で検証し、より良いDC制度に改善していくことが理想的です。企業年金に自助努力の要素が加わり、投資教育の拡充が求められます
これまでのDCの投資教育は、会社掛金をどのように運用するかを中心として構成されていました。マッチング拠出の導入により、企業年金に自助努力の要素が加わったことで、これまで以上にライフプランや退職後の資産形成のひとつの手段として企業型DCを捉える必要が出てきています。
会社が実施する投資教育でも、ライフプラン・リタイアメントプランに特化した研修を実施するなど、投資教育の拡充が求められます。
- マッチング拠出について<まとめ>
-
- 企業型DCに加入者が掛金を拠出できる制度
- 企業年金でありながら、加入者も掛金を拠出し、退職後の資産形成を図れる新たな仕組みです。利用は任意で、加入者は会社掛金と同額まで、かつ合算して拠出限度額まで掛金を拠出できます。
- 加入者の掛金は全額が所得控除
- 加入者の掛金は、全額が所得控除の対象となり、所得税・住民税が軽減されます。ただし、原則60歳まで受取りができないので、当面必要な資金は手元に残すなどの注意が必要です。
- 低コストで福利厚生の拡充が図れる
- 制度自体は加入者が掛金を負担する仕組みなので、会社は軽微な負担で福利厚生の拡充を図ることができます。労働組合から積極的に導入を提案する価値があります。